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ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)
山の憶い出 上
木暮 理太郎
Read 山の憶い出 上 (ふえふきがわのじょうりゅう(ひがしさわとにしさわ)) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 284,014 characters · 565 screens
藪が一きわ烈しくなって、石楠の密叢へ行き当る。夫を突き抜けて左の方へ五、六歩行くと、ひょっくり甲武信岳の頂上へ出た。午後十二時二十分である。
想えば釜沢を遡って見たいという希望は久しいものであった。甲武信岳の頂上へ来る度に、いつも果されざる憾を以て、すぐ脚の下に瞰下ろしたまま空しく過ぎ去るに止まっていた其沢を、斯うして無事に遡ることが出来たと思うと、見慣れた此山の頂上も自分等には新らしい意味を以て迎えられた。殊に今日は上天気である。白馬岳の附近と奥上州方面とを除けば、此処から見られる筈の山は皆一望の下に集った。小川山の上からは木曾の御岳が覗いていた。八ヶ岳と蓼科山との間に奥穂高、常念、大天井から鹿島槍、五竜に至る北アルプスの大立物が、銀光燦として遥かの空際を天馬の如く躍っている。籠ノ塔の後には岩菅山らしいものさえも望まれた。
頂上に駐ること約一時間にして、午後一時十五分林道を栃本に向って下り始める。十間も行くと雪が二、三尺も積っているのに驚いたが、更に進むともう何処も真白に雪に埋れて、地面の露れている所などは少しもない。路筋さえも一向に判然せぬ。