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あしのうら
怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像
蘭 郁二郎
Read 怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像 (あしのうら) by 蘭 郁二郎 (らんいくじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 109,233 characters · 223 screens
その男は中田の目の前に、何処に持っていたのか、一振の短刀を突き出したのだ。
この悪に麻痺した狂人が短刀を持っている――それは中田に取って、恐るべき事実であった。中田は思わず飛び立って遁げだそうとした。
だが、失恋というものが、こんなにも感傷的な気持を誘うものだろうか――中田は今、沁々とそれを体験した。
『何をいいやがる、殺せるものなら殺してみろ』
中田は思い切り大声で呶鳴った、然し、それは妙にかすれた、うわずった声であった。
『何、僕では殺せないというのか』
狂人は短刀をしっかと持ちなおした。そして、よろよろと立ち上ると、もう二つの影はもつれ始めているのであった。
――やっと持ちこたえていた暗灰色の空からは、もうまち切れぬように、身を切るような霙が荒涼たる原一面を覆って、しょぼしょぼと降り出して来た。折れ朽た雑草に、積り古りた落葉に、霙の解け滲む陰惨な音は、荒れ果てた曠野一面に響くかと思われた。そしてまた、薄黒い北風が、なお一層激しく吹きつのって来た……
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翌日はうらうらとした小春日和が、なごやかに訪れて来た。新聞の朝刊には「失恋自殺」