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うきふね
文豪怪談傑作選・特別篇 鏡花百物語集
泉 鏡花
Read 文豪怪談傑作選・特別篇 鏡花百物語集 (うきふね) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 32,938 characters · 67 screens
八
」
身を恥じるように言訳がましく、
「実は、あの、小婢を買ものに出しまして、自分でお温習でもしましょうか、と存じました処が、窓の貴方、荵の露の、大きな雫が落ちますように、螢が一つ、飛ぶのが見えたんでございますよ……」
「螢。」
と巽は、声に応じて言返した。
「はあ、時節は過ぎましたのを、つい、珍しい。それとも一ツ星の光るお姿か知ら、とそう思って立ったんですが、うっかり私、撥なんか持って、螢だったら、それで叩きますつもりだったんでしょうかねえ。そんな了簡で、螢なんて、蜻蛉か蝙蝠で沢山でございます。」
蜻蛉は寝たから御存じあるまい、軒前を飛ぶ蝙蝠が、べかこ、と赤い舌を出して、
「これは御挨拶だ。」
と飜然と行る。
八
「それですから、ふっと、その格子を覗きました時は、貴方の御手の御薬の錫をば、あの、螢をおつかまえなすった、と見ましたんですよ。」
器は巽の手に光る。
彼は掌に据えて熟と視た。
「まあ、お塩梅が沢山悪いんじゃありませんか、何しろお上りなすって、お休みなさいましたら何うでしょう。貴方、御気分は如何です。」と、摺寄って案じ顔。
巽は眉の凜とした顔を上げて、