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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,353 characters · 371 screens
留守の者に訊かれると、誰もみな、重い首を、だまって横に振るだけだった。
信長も、以来、沈黙していた。戦いは、いつも桶狭間のようには行かないものであると、ひとり教えられていたにちがいなかった。
洲股の城も静かに、ただ蕭々と、大河の秋の訪れに吹かれていた。
「――彦右衛門」
「はッ」
唐突だった。
何を思い出したか、藤吉郎から急に訊ねだしたのである。
「以前の小六党の野武士だった中には、諸国の生れが雑多にいたろうが、その中に美濃者もずいぶんあろうな」
「おりまする」
「不破郡の生れの者はいないだろうか」
「調べてみましょう」
「む。いたらこれへ呼んでくれまいか」
藤吉郎は、居間にいた。
すると蜂須賀彦右衛門は、やがて以前の野武士だった組のうちから、佐屋桑十という男を庭さきへ拉して来た。
三十がらみの強そうな男に見えた。洲股へ来てからは、普請にも働き、厩方の役について、今では、実直な家中の一名だと、彦右衛門から云い添えた。
「佐屋桑十というか」
「はい」
「美濃の不破郡の産か」
「垂井の在でござる」
「では、あの辺の地理にはくわしかろうな」
「二十歳までは、故郷におりましたゆえ、少しは」