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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,353 characters · 371 screens
伊勢軍功帳
馬上、ゆらりと、城門を離れつつ、彼は本丸を振り仰いだ。
母は、築山へのぼっていた。妻もいた。女たちはみんなそこに一かたまりとなって、花のごとく群れていた。
「自信がある。わしが征けば、伊勢は三月か四月で片づこう。夏はまた、ここへ戻ってみえる。なに、死なん。……戦なんてそういと易く死ねるものじゃない。母上をたのむよ」
見送りのため、城下端れまで、駒を並べつつ従いて来た義弟の小十郎に、彼は、平時のように話しかけていた。
一瓢――まだ一瓢の馬じるしは、彼の馬前に燦としていた。
伊勢軍功帳
いつまでも、燃え限れない籾殻の煙や米の焼ける匂いが野をつつんでいた。ゆうべから夜明けにかけてようやく占領した部落に、織田軍の本部はもう移っていた。
真っ紅な桃畑も黒く見える。負傷者の群れがそこに呻きあっていた。負傷した将兵は半分気が狂っているように、
「何だとッ。逆襲せが来たッ?」
「おれを起たせろ」
「これしきに、斃れて堪るか。もういちど行って、一働きせねば」
天を向いて喚いていた。
莚を敷きならべ、何十人となく、朱になって寝かされているのである。もとより身動きもできない深傷ばかりだが、気が立っているので、口だけは、各※(二の字点、1-2-22)、今も戦っているように、怒号もすれば、歯ぎしりもする。