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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,353 characters · 371 screens
――急に、声を落して、
「辺りに、お人は」
と、襖を見まわした。
「お気づかいはない。召使どもは遠ざけてあります。襖ごしに、気はい致した者は、てまえが無二の腹心とする老臣一名。……廊下の口を見張っております者で、他に誰もおりません」
「では。お耳に入れるが、実は、この身には、将軍家義昭公の親書と、室町家の名族、細川藤孝どのの書面とを帯びております。――いずれも、信長様へお宛てなされたものです」
「えッ。……将軍家から」
「越前の朝倉家には、元より極秘。――途々の諸大名にも覚られては一大事なのです。これまで参る途上の辛苦は、お察しにあずかりたい」
「……ふウむ」
可成は、思わず呻いた。
多年、乱脈な暴状をきわめていた室町幕府の内輪もめがまた、自爆を喚んで、三好、松永の両党が、将軍義輝を殺したのは、その年の前年六月だった。
将軍家に弟が二人ある。
ひとりは鹿苑寺の周で、これも三好、松永の党に殺された。もう一名は、南都一乗院で門主をしていた覚慶である。
覚慶も当然危うかったが、細川藤孝と謀って、守兵を酒で欺いて逃亡したのだった。
これが義昭である。
逃亡後、しばらく江州あたりに身をかくし、還俗して、兄義輝の後を継いで、十四代将軍を名乗ったものである。