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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,353 characters · 371 screens

Aozora Bunko

「はい。殿さまのお暇ができたら、お眼にかかって、親しくお願いのことがあるとか申されて、もう四、五日ほど前から、御老母様の許に逗留して、お待ちになっておられます」

「はて、おえつ? ……誰であろうか」

藤吉郎は、しきりと、小首をかしげていたが、

「ま。参ろう」

と、妻と共に、母の住む奥の丸へと足を運んで行った。

寧子は、局へはいると、老母に向って、

「お連れ申し上げました」

と、答えた。

老母は、この数日、藤吉郎の顔を見なかったので、寧子を使いにやって、誘わせたのであった。

「おう、見えましたか」

自分の側に、褥も設けて、待ちわびている風だった。

藤吉郎は、母と並ぶと、

「おゆるし下さい。具足を解いてから、まだ風呂にも、一度か二度しかはいらぬ始末です。――が、もう万端、用事はいいつけました。きょうは一日、寧子や女どもを交え、母上のお側で遊び暮しましょう」

「一日だけかの」

老母も、浮いて、戯れ顔に、

「寧子よ。こよいは藤吉郎を、奥の丸に泊めて、帰さぬがよいぞ」

と、いった。

顔を紅らめながら、

「畏まりました。母上様のおゆるしがないうちは、お表へお帰し申すことではございませぬ」