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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,353 characters · 371 screens
店の稼業どころではない。……そうだ、曾呂利どの、おまえは見かけなかったか」
「誰を……?」
「わしの父を」
「宗易さまか」
「そうじゃ」
「はて。――今し方まで、店に坐っていたが、通った者は、甲冑を着たお侍と、兵糧運びばかりじゃった」
「どこへお出でなされたやら。……どう探しても見えぬのじゃ」
「あの方のことだ。天王寺屋の宗久どのか、油屋へでも立ち寄って、話しこんでおられはせぬか」
「いやいや、その衆はみな、こん夜のお客に、わしの家へ招いてあるのじゃ。それなのに、茶室の裏庭から、ぶらりと出られたまま、お帰りがない」
「こん夜、何があるのじゃな」
「おまえと似て、わしの父も、変っている。十人衆のおなかまを招いて、茶事をなさると仰っしゃるのだ」
「やれやれ、行きたいな。――なんでわしは招かれなかったか」
「暢気なことをいうではない。今にも、戦いが、この堺が、兵火に焼き立てられるかと、みんな恟々している中に、招かれたお客こそ、どんなに迷惑であろうと、お察ししているのじゃ」
「……が、かんじんな御亭主がおらいでは」
「だから、困り果てているのじゃ。もう、とつこうする間に、黄昏れかけてもくるし……」