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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,353 characters · 371 screens

Aozora Bunko

稀れだといっていい。

が――家康は抜け目なかった。

信長が、堺の始末もつけて、再度、岐阜へ帰ってから、ふと、

「三河の近状は?」

と、心のうちから振り向いてみると、いつのまにか、三河はもうかつての弱小貧困な三河ではなくなっていた。

「家康も、やりおるな」

と、ひそかにその抜け目のないことに、舌を巻かずにいられなかった。

家康は、同盟国の織田が、自分に背後を守らせて、中原へ出ている間を、ただ甘んじて、尾濃の裏門の番犬に安んじてはいなかった。

むしろ、好機措くべからずとして、活溌な外交と、兵力を用いて、今川義元のあとの――今川氏真の勢力を、駿河遠江の二国からまったく駆逐してしまったのである。――もとよりそれは独力ではなく、織田家とむすぶ一方、彼もまた、甲州の武田信玄と款を通じて、

「駿、遠の二国を分け取りに」

という盟約の下になされたことであった。

氏真は、暗愚だったので、徳川家へも、武田家へも、兵を向けられるよい口実を多く与えていた。いかに乱国でも、名分のない戦はできなかったし、また、名分のない戦が遂に勝てないことは、将たるほどの人物なら、誰でも弁えぬいているので、そういう名分を敵につかまれる政治をしていた氏真は、何といっても、先の見えない暗愚な将でもあり、故義元にとっては、不肖な世継であったといわれても仕方が