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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,353 characters · 371 screens

Aozora Bunko

「いや、それよりもだ」

と、犬千代は突っ込むように云い出した。

「――これから向われる貴公の戦場こそ、織田家の興亡のわかれ目だ。ほかならぬ木下殿のことと、わしは信頼しておるが、家中の不評、御城下の不安、ひと通りでない。心配のあまり追いかけて別辞を申しに来たが、よいか木下。――将となって一軍を指揮するとなると、今までの貴公とは、その双肩に負ってゆく責任もちがうし、軍配の手心もよほど変るぞ。――いいのか木下。腹構えは」

「安んじてくれ」

覚悟のほどを、慥とうなずいて見せながら、藤吉郎は重ねていった。

「一策があるのだ!」

だが犬千代は、その一策を聞くと、それこそ不安なのだといわぬばかり眉をひそめ、

「おぬし、君命をうけるとすぐ、手飼のごんぞに馬を与え、蜂須賀村へ使いに飛ばせたそうじゃの」

「聞いたか。秘中の秘を」

「実は、寧子どのから」

「洩れるはやはり女の口。怖いな」

「いや出陣の祝いに、門をさし覗いたところ、今朝未明に熱田の宮へ詣でて、おぬしの武運を祈って戻ったところとか、ちょうどごんぞも居合わせたのでふと話のはしに出たのじゃ」

「然らば、てまえの腹中も、語るまでもなく、御明察がついたでござろう」