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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,353 characters · 371 screens

Aozora Bunko

「よしッ」

小六はにこと面を和らげ――

「その意気で来い」

と、さらに励ました。

するとその時、家人の者が慌ただしく中門から廻って来て、小六へ向って告げることには、ただ今、織田信長の使者と称する者が――使者にしては供も連れずただ一名で御門に駒を繋ぎ、ぜひ密々お目にかかりたいとの申し入れですが――何と計らったものでしょうか。

「それがまた、変な男で……」

と、取次の家人は、云い足した。

「ただ一名、ずかずか門内へはいって来るなり、彼方此方を無遠慮に眺めまわし、ああ懐かしいなア、などといったり、いつも変らず山鳩が啼いているの、この柿の木が大きくなったのと――独り合点にたわ言を呟いている態、どうも織田家の使者とは受け取れぬ容子もあるので」

小六も、首を傾げて、

「はてなあ……?」

しばらく間を措き――

「姓名は」

「木下藤吉郎と申しました」

「ふ、ふ、ふッ……」

にわかに、不審が解けたように、

「そうか。いや分った。先頃、書面をよこした織田の家来か。会う用はない。追い返せ」

さもこそ――と、家人は頭領のことばに頷いて、一蹴すべく意気ごんで駈け戻って行った。

「おねがいがござります」