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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,757 characters · 375 screens

Aozora Bunko

白湯なと貰おう」

そんなことを云いながら秀吉は陣門へ近づいて行った。忠興とその家臣たちの驚きは一方でない。突然の陣見廻りかと考えたらしい。

「いや何、父室へ登った帰り途じゃ。――が、思い出したゆえ、ここで伝える」

と、秀吉は忠興を前に見ると、白湯をのみながらこう命じた。

「お汝の軍勢は、直ちにここを陣払いして、国許へ帰れ。そして、丹後宮津一円の兵船を挙げて、越前の敵沿海を脅かせ」

忠興は、ありがとうぞんじますると即座に答え、秀吉が去った後で、すぐ陣を引払い、宮津へ帰国した。

そして、やがて一ヵ月後、ここに賤ヶ嶽決戦の果さるる日となるに及び、この細川軍の一手は、水軍をもって、越前の領海を水上から襲撃したのであった。

山へ登って、水軍を着想する。こういう聯想によらない構想は、秀吉でなければちょいと働いて来ない頭脳といってよい。

彼の頭脳のはたらきと、肉眼の視界とは、大して関係がないのである。

それはともかく、その日、忠興に唐突な引揚げを命じて、一椀の白湯に喉をうるおし終ると、秀吉は、

「どれ」

と、床几を辞し、国許へ帰ったら藤孝によろしく伝えてくれい――などと忠興に語りながら陣外へ出て来たが、別れるとすぐ振向いて、