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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,757 characters · 375 screens
「与一郎、与一郎」
と、また忠興を呼んだ。
まだ何か命じ残したことでもと――忠興が駈け寄って行くと、
「与一、筑前に、馬を一頭おくれぬか」
というのであった。
忠興は、名馬を望まれたことと思い、当惑そうに、
「私の愛馬はさし上げるわけにはまいりませぬが、他の馬なれば」
と、いった。
秀吉は無頓着に似ていた。彼の繋ぎ杭を見て、自身立ち寄り、
「これを貰うぞ」
と、もう乗っていた。
それは、鞍こそ置いてあるが、荷駄組の者の乗用していた丈夫一方の不恰好な馬だった。
(大将、馬相を観る目がないな)
若い忠興はふと軽んじるような念を抱いたが、いつか佐和山城内で、父の藤孝から懇ろに諫されたことばを思い出して、
(いやそう見ては、自分こそ、人を観る目がない者かも知れぬぞ)
と、すぐ、自己を戒めて、駄馬に乗って行く秀吉の姿を見送っていた。
秀吉は、馬の背から、
「虎之助」
と、供のうちの加藤虎之助を呼んでいた。
「なんぞ?」
と、鞍側へ寄って見上げると、秀吉は、鞍腰をすえ直しながら云った。
「この馬は、癖馬か。左へ左へと寄りたがるぞ。どうしたことか」
「ははは。その筈です」
「脚でも悪いか、鞍ずれか」