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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 180,256 characters · 361 screens

Aozora Bunko

小六が泉州堺から密かに呼びよせた、鉄砲鍛冶の国吉が、弟子と共に、仕事していた。

「どうだな? 仕事は」

彼が立つと、国吉や弟子は、仕事場の土間に、平伏した。

「まだ、巧くゆかぬな。――見本の鉄砲と同じような物が、何とか出来ぬものか」

「ああしたら、こうしたらと――寝食もわすれて、苦心は致しておりますが」

――無理もない。

小六がそういうように頷いていると、母屋使いの小侍が追って来て、

「お頭様。ただ今、御厨へ行ったお使いの御両所が、戻られましたが」

と、告げた。

「なに。帰って来たと」

「はい」

「して、大炊と新七は、天蔵めを連れて来たか」

「甥御さまにも、御一緒にお越しなされました」

「よし!」

うまく誘い出したな――と小六はまず、首尾を心で頷きながら、

「待たせておけ」

と、いった。

「いつもの御書院へ」

「そうだ。直ぐ行くから」

「はい」

小侍は、駈けて戻って行く。

奇策縦横の人物――と一族からは信頼されているが、小六の半面にはまた、ひどく気の弱いところもあった。

義には強いが、涙には勝たれないという弱さなのだ。わけて骨肉の情には脆い小六なのである。粗野で兇暴で荒削りな――土豪の家長として睨みも押しもきく骨太い性格の中に、それだけに本能的な涙と、また、怒ったら野火のように止らない血を持っていた。