Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 180,256 characters · 361 screens
と、小川がある。行き止りだ。
「おや、こいつはいけねえ」
わざと聞えよがしにいって、見廻すと、折よく、人影もなかった。
でも、念のため。
彼は、小川へ向って、尿をしながら、しばらく悠々と、附近の様子を見とどけ、さてと、おもむろに懐中から廻文を取り出して読んでみると――
こよい、戌の下刻
風。西か南なれば
常在寺うらの森に集合のこと
風。北に変ずるか
風やむ折は、集合もやむ事
「…………」
予想はやはりあたっていた。日吉は読み終ると、細かに裂いて、口のなかに丸めこみ、紙団子になるまで噛んでいた。
「――針売りッ」
ふいに、何処かで呼ばれたので、日吉はうろたえ、口の中の物を、川へ吐き捨てるいとまもなく、掌へ吐いて握った。
「へい。どちらですか」
「ここだ。針を買ってつかわすから、はいって来い」
声は聞えるが、誰か、何処か、一向その人の姿は見当らなかった。
――いくら見廻しても、姿の見えない筈。
声の主は、彼方の侍屋敷らしい構えの中だった。低い堤の上へ、二段に繞らしてある築土のうちから、その声はしたのである。
「針売り針売り。こっちへ廻って来い」
築土の横手の、小さい潜り門が開き、そこから若党らしい者が、首をさしのべていた。