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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 180,256 characters · 361 screens

Aozora Bunko

日吉は、目をみはった。

室内は、書物で埋まっていた。机のまわり、壁の書棚、二の間も二階も、書物の庫になっているらしく思われる。

(ここの主人か、その甥か。よほどな学者だとみえる)

日吉には、書物など、見るのも珍しかった。――しかし、長押を仰げば、そこには見事な槍、床の間をのぞけば、そこには鉄砲が立て懸けてあった。

やがて、その人は出て来た。

静かに、机の前へ座を占め、頬杖をついた。そして、庭前に屈まっている日吉の方を、書物の文字を見るような叡智な眼で、しげしげ見ていた。

「はい。今日は」

――それとは、まるで正反対な、開けッ放しな顔を上げて、日吉は、

「ありがとうございます。てまえが針売りで――。針をお求め下さいますか」

十兵衛は頬杖をついたまま、机の上から頷いて、

「うむ。求めて遣わすが、その前に、ちと訊ねたいことがある。――そちは針を売るのが目的か、それとも、御城下を探るのが目的か」

「もとより、針さえ売れればよいので」

「ならば、こんな屋敷小路などへ、なぜはいって来たか」

「抜け道かと存じまして」

「嘘を申せ」

十兵衛は、少し身をねじ向け、

「見るところ、旅摺れした面構え、行商も今日やきのうのことではあるまい。