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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
Read 日本橋 (にほんばし) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,697 characters · 177 screens
」
「ピイピイ笛の麦藁ですかえ、……あんな事を。」と、むら雲一重、薄衣の晴れたように、嬉しそうに打微笑む、月の眉の気高さよ。
「あの、時分の事を思いますと、夢のようでござります。この頃でも、御近所だと時々聞かれますのでござりましょうがな。」
「可い塩梅。」
とやや元気に、
「幸と聞えやしませんよ。……でも笛だけは、もういつも、帯につけていますけれども、箱部屋の隅へ密として置くばかり。七年にも八年にも望まれた事はありません。世間じゃ誰も知らないのに、お爺さん、ひょんな事を言出して、何だか胸があつくなった。笛が動いて胸先へ!……嬰児のように乳に響く! いつでも口を結えられて、袋に入っているんだから。」
と命を抱く羽織の下に、きっと手を掛けた女の心は、錦の綾に、緋総の紐、身を引きしめた朧の顔に、彩ある雲が、颯と通る。
眉を照らして、打仰ぎ、
「……世に出て月が見たいんでしょう。……吹きはしませんよ。」
とすらりと抜いて、衝と欄干へ姿を斜めに、指白々と口に取る。
ああ、七年の昔を今に、君が口紅流れしあたり。風も、貝寄せに、おくれ毛をはらはらと水が戦ぐと、沈んだ栄螺の影も浮いて、青く澄むまで月が晴れた。