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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
Read 日本橋 (にほんばし) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,697 characters · 177 screens
そういう事は知っとるが、趣味と情愛の見聞が少かったためじゃろうか、医学士が生理学教室で、雛を祭る、と云うは信じなかった。――吹く風はなこその関と思えどもですわ。」
と嘆息して、髯に掛けた指を忘れた。
「鎧の袖に桜のちらちらとかかると云う趣も、私のその了簡では嘘にせねばならんのじゃっけえ。
恥入るです――一個人としてじゃが。」
巡査は、ずるりと靴をずらして、佩剣の鞘手に居直ったのである。
「で、国手に大に謝そうと思う処へ、五六人、学生とは覚えない、年配の、堂々たる同僚らしいのが一斉に入ってござったで、機を考えて、それなりに帰ったです。
この意をじゃね、願わくは貴方から国手にお伝えのほどを偏に希望します。私は職務上の過失であらば責を負うです。それは別問題として、――私は、貴方から御挨拶を願うのが、もっともその道を得たものと信ずるのじゃ。
就てはです。私は没分暁漢の一巡査であるが、生理学教室に雛を祭ることにおいて、一石橋の朧月一片の情趣を会得した甲斐に、緋緘の鎧の袖に山桜の意気の羨しさに堪えんで。
十年勤務の間、唯一の美挙として、貴方に差上げたいものがある。