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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
Read 日本橋 (にほんばし) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,697 characters · 177 screens
」
女房は立った序に、小僧にも吩咐けないで、自分で蒲団を持出して店端の縁台に――夏は氷を売る早手廻しの緋毛氈――余り新しくはないのであるが、向う側が三間ばかり、忍返しの附いた黒板塀なのと、果物の艶を被せたので、埃も見えず綺麗である。
「いいえ、すぐにお暇を。――お千世さん、何が可かろうねえ。」
「済みません、姉さん。」
とお千世は瞬きで礼を言う。
清葉はいまし方、火の番小屋から、直ぐに分れて帰ろうとして、その銀貨入を、それごとお千世の帯の間へ挟みつつ云うのに――
「あの、極りが悪いんですがね、お前さんのために使おうと思ったのを、使わないで済んだんです。お金子だと思わないで、お千世さん。」
「まあ、なぜ?」
「小児に苛められたお見舞に。」
お千世は、生際の濃い上へ、俳優があいびきを掛けたように、その紫の裏を頂いたが、手へ返して、清葉のその手に、縋るがごとく顔を仰いで、
「姉さん、このお宝で、私をお座敷へ呼んで下さいな。……ちっとも私、この節かかって来ないんですもの。」
土地の故参で年上でも、花菖蒲、燕子花、同じ流れの色である。……生意気盛りが、我慢も意地も無いまでに、身を投げ掛けたは、よくせき、と清葉はしみじみ可哀に思った。