Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
あらしのなか
暴風雨の中
山本 周五郎
Read 暴風雨の中 (あらしのなか) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,339 characters · 30 screens
合羽をかぶっていたのに、長半纒の前はずっくり濡れていた。彼は顔や頭を拭きながら、廊下へ出ていって外を眺め、それから三之助の前へ来て坐った。
水が軒庇についたのだろう、たぷたぷと重く、下から庇板を打つ音が聞えだした。水面は驚くほど高くなっていた。それは三之助の位置からも見えた、あけてある障子と、雨戸の隙間越しに、……濁ってふくれあがる水の面を、斜めに篠をなして豪雨が叩くので、いちめんに灰色のしぶきが立っていた。
「惜しいことに舟の繋ぎようを知らなかった、繋ぐ場所も悪かったらしいな」三之助が云った、「おれにゃあ聞えたが、繋いだ※綱が繋がれたところをひっぺがした、舟はそのまま流れていったようだ、そんなような音をおらあ聞いたぜ」
「だから逃げられるとでも思うのか」
「――おれがか」
「おらあ武井屋の佐平ってえ者だ」男はきせるを拾った、「気の毒だがいちどお繩にした以上、どんなことがあったって逃がしゃあしねえから、そのつもりでいろ」
三之助はふんと云った。そのときどしんと、なにかが家へぶっつかった。流れて来た材木かなにからしい、重たげな響きと共に、家ぜんたいがぐらぐらと揺れた。