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うんせききこう
柳宗悦 民藝紀行
柳 宗悦
Read 柳宗悦 民藝紀行 (うんせききこう) by 柳 宗悦 (やなぎむねよし) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 133,050 characters · 276 screens
日田の皿山
一
一
筑紫の平野を車は東にと走る。見渡す限り金色に光る菜の花の敷物である。あの黄色を好んだ画家ホッホが見たら狂喜したであろう。不思議にも美しい自然は絵画を通して私たちの眼に入る。田主丸や吉井を通れば、土塀や土蔵の家々が町の古い物語りを話しかける。これも泥絵の画工たちが重々私たちに「覚えよ」といってくれた題目である。だが私の心が急ぐのは国を一つ越えた先の日田である。平野の尽きたところに筑後川が迸る。河は急に二つの山を引きつけて岩を砕きながら私の方に走る。しぶきをあびながら岩角に佇んで糸を垂れる者が見える。彼は香魚の季節のおそいのを怨んでいるのであろう。「うるか」はこの地の呼び物である。漸次河が谿に沈むを思えば道が坂にさしかかったことが分る。虹峠を降ると県標が佇む。福岡県から大分県に入るのである。筑後が豊後に代るのである。それよりもここで日田郷に入るといった方がいい。この道は日田あっての街道である。
隈、豆田を合せて今、日田町という。山間には思い掛けない都である。土地の人は日田を「ヒタ」と言い慣わす。ここは水郷である。水郷であっての日田である。幾条の流れが何処から来り、如何に合さり、何処へ行くのか、地図のみが知っている。