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さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
Read 桜島・日の果て・幻化 (さくらじま) by 梅崎 春生 (うめざきはるお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 169,810 characters · 345 screens
打ちのめされたような敗北感だけがあった。彼は震えながら、女に酒を頼んだ。熱いコップ酒に口をつけながら呟いた。
「不潔なやつだな。あいつは!」
不潔なのは自分であることは、理屈では判っていた。しかし実感としては、教授の方が不潔でいやらしいと思う。教授が窓を見上げねば、不潔感は生じなかった。見上げたばかりに、穢らわしい感じになってしまった。しかも教授が表情を少しも動かさず、動物園の檻の中のけものでも見る眼付きだったことが、五郎を一層傷つけた。
〈やはりおれの負けだったんだ〉
太縄の藁のけばをむしりながら、今五郎は思う。少年がジュースを二本ぶら下げて戻って来た。五郎は受取りながら言った。
「栓抜きはないのか」
「忘れた」
「だめじゃないか。借りておいで」
そして五郎は言い直した。
「借りて来なくてもいい。向うであけてもらって来いよ」
「栓抜きがなくても、歯であける」
あれは寒い夜で、たしか三学期の初めであった。九時過ぎに赤提灯の裏口から忍び出て、下宿に戻った。
松井教授に対する不潔感は、まだながく残っていた。どうしても教授の講義を聞く気がしない。で、その学期中、五郎は松井の講義に出席しなかった。