Japanese reading practice

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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

Read 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 167,285 characters · 330 screens

Aozora Bunko

「地境のことはむずかしゅうございますね」と甲斐が云った、「いつか一ノ関さまと吉岡の奥山大学とで、衣川の片瀬片側の論がありましたが、なにしろ図面が明確でないのですから、お互いにゆずりあってゆくより致しかたがないでしょう」

「船岡は知らないからそう云うが、人間には意地というものもありますよ」

「たしかに」と甲斐はゆっくり頷いた。

「私には意地もあるし、伊達宗家一門としての名聞もあります」式部が云った。

甲斐はまた頷いて、弓に矢をつがえた。片肌ぬぎの、ひき緊った、逞しい肩が、晩秋の午後の陽ざしを吸って、艶つやと光を帯び、弓をあげると、日にやけた皮膚の下で、筋肉の瘤立つのが見えた。

「涌谷は老巧だから、理屈では私はかなわない、しかし地境の是非は事実が証明しているので、理屈がどうあろうとも、私は決してあとへはひかないつもりです」

甲斐の手で弓弦が鳴った。

こころよい弦音とともに、矢は、糸を引くように的へ飛び、まえの矢と殆んど同じ一点に突立った。甲斐は射放したままの姿勢で、静かに右手をおろし、堀内大助が、的から矢を外すのを見やりながら、「それで」と式部に云った、「なにか私で、お役に立つことがあるのでしょうか」