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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Read 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 167,285 characters · 330 screens
「話しを聞いていなかった」と帯刀が云った、「私の話しを聞かずに、なにか考えごとをしていた、なにを考えていたんだ」
「いいえ、なんにも」と宇乃はかぶりを振った、「わたくしお話しをうかがっておりましたわ、ちゃんとうかがっていて、あら、――」
彼女は赤くなり、帯刀を見あげて、にっと、恥ずかしそうに頬笑んだ。帯刀は、それごらん、というふうに、宇乃を見た。宇乃はその眼に頷いた。
「いいよ、云わなくともわかっている」と帯刀が云った。また父のことだと、彼は思った。宇乃がそんなふうにしているときは、必ず、甲斐のことを想っているのである。これまでたびたび経験しているので、帯刀にはすぐに見ぬくことができた。
「こんどは大丈夫ですわ」と宇乃は膝を直した、「こんどはちゃんとうかがいますから、どうぞあとを話して下さいましな」
帯刀は話しを続けた。
彼は原田家の歴史を語っているのであった。それはほぼ伊達氏の歴史と相伴ったもので、すなわち、右大将源頼朝の旗下であった非蔵人朝宗が、伊達氏の始祖であり、その二代、常陸介宗村の代に、原田家の祖、与次郎がその家臣となった。宗村は常陸から奥州へ所替になり、伊達郡に館を構えて「伊達」