Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

Read 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 167,285 characters · 330 screens

Aozora Bunko

憔悴した顔が蒼くなり、肩からちぢまるようにみえ、そうして、低い声で、彼は挨拶を述べた。

丹三郎は冷やかに「しばらく」と云ったきり、二度と新八を見ようとはしなかったし、その表情からは、ついに侮蔑の色が消えなかった。

――舎人から事情を聞いたな。

甲斐はそう思った。新八がここへ逃げこんだ事情を、舎人から聞いたのであろう。畑姉弟を誘拐し損じたことと、ここへ逃げこんだわけを聞けば、丹三郎の気性としては赦すことができないにちがいない。潔癖であることはいいことだ、潔癖でいちずな気性は悪くない。丹三郎の生きかたには紛れもないし迷いもない。すがすがしく、きっぱりと割り切っている。そうだ、だからこそ彼は鬼役を買って出ることができたのだ、と甲斐は思った。

食事はきまずい気分のうちに終った。甲斐は二人をとりなさなかった。かれらはまったく無縁である。流れの中で偶然によりあった木の葉が、すぐに相はなれて、互いの方向へ流れ去るようなものだ。このままでいい、と甲斐は思った。女中たちが食膳をさげ、茶と菓子をはこんで来た。丹三郎は毅然と坐ってい、新八はうなだれたままであった。

断章(十)