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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Read 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 167,285 characters · 330 screens
と七十郎が訊いた。
「会う、この年末に帰国するそうだから、仙台でぜひとも会うつもりだ」
「むずかしいな、一ノ関は会いはしないぞ」
「会わなければ捉まえるさ」と十左が云った、「城中でも路上でも構わない、必ず捉まえて談判するつもりだ」
「そうだな、――」と七十郎は自分に頷き、うんそうだ、と十左に云った、「おれもひとつ会ってやろう」
「一ノ関にか」
「おれを家臣に召し出そうというんだろう、それが事実なら、きっと呼びだしがあるだろうし、訪ねてゆけば会う筈だ」
「会ってどうする」
「十左に会えとでも、すすめようか」と云って七十郎は笑った。
十左は渋い顔をし、七十郎は妓に、なにか唄え、と命じた。十左はそれを制止し、話しておきたいことがあるから、暫く妓たちを遠ざけてくれ、と云った。――妓たちが立ってゆくと、十左は旅嚢から一巻の書状を出して、七十郎に、読んでくれ、と云った。七十郎は盃を置き、それを披いてざっと読みながした。
それは九カ条にわたる「兵部弾劾」の書で、亀千代ぎみの側近が、忠不忠を吟味した人選でなく、兵部の親疎によってなされたこととか、両後見(兵部と右京)のあいだが不和で、事ごとに意見が対立するのは、幕府老中に出した誓紙にもとるとか、奥山大学一人に仕置を任せたため、幾多の禍根を残したが、これも大学を挙用した兵部の責任であるとか