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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Read 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 167,285 characters · 330 screens
ようだ、それについてなにか意見があったら聞きたい、などとね、まじめな顔で云いましたよ」
「その味はどうだ」
「話しの腰を折りますね、結構ですよ」と七十郎が云った。
自分は一ノ関の顔を見た。じっと、穴のあくほどみつめていて、それから、「意見のないこともない」と云った。御家中に紛争が絶えないのは、或る少数の、好ましからざる人物が、藩政に不当の干渉をしているためだと思う。自分は処士で、自由にものを云うことができるから、必要のある場合には、その好ましからざる人の名を挙げ、その非行を剔抉するつもりである。自分ははっきりそう云ってやった、と七十郎は肩をそびやかした。
甲斐は沈んだ声で云った。
「益もないことを云う」
「益もない、ですって」
「蜂の巣を突つくようなものだ」と甲斐が云った、「そんなことを云ったところでなんの役にも立たないし、却って身に禍が返ってくる、上方へゆくというのは幸いだ、早くでかけるがいい、七十郎、さもないと自分が突つき出した蜂に刺されるぞ」
「なに、危ないのは一ノ関のほうですよ」と七十郎が笑った、「貴方にだけ云っておきますがね、里見老が一ノ関を覘っているんです」