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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Read 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 167,285 characters · 330 screens
「はい、よくわかっています」
「それでも危険な事が起こるようだったら、この家へ来るがよい、それを覚えておいで」と甲斐は云った。
少女を帰らせてから、甲斐はおくみを呼んで時刻をきき、十時少し過ぎだということがわかると、すぐに着替えにかかった。おくみは事情を知らないので、こんな時刻に帰るということが不審でもあり、だいいち御門があかないであろう、と不安そうに云った。
「丹三郎が死にかかっている」と甲斐が答えた、「もうまにあわないかもしれないが、生きていたら一と眼会ってやりたいのだ」
おくみは顔色を変えた、「ではあの」
「云うな、なにも云うな」と甲斐は首を振って遮った。
帰邸しても門がとおれるかどうかわからない。門に入るためには、非常の場合、であることと、自分の国老としての責任を盾に取らなければならないが、どうして「非常の場合」であることを知ったか、ということが問題になるであろう。原田の家従も、もちろん禁足の命令で動けない。動ければ知らせに来たはずである。では誰から聞いたかということが、必ず問題になるに違いない。そのときどう答えるか。
――わからない。
わからないが、ともかく「置毒」