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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Read 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 167,285 characters · 330 screens
「べつに目的がある」と島田が訝しそうに訊いた。
「わかった、わかったよ」と砂山忠之進が云った、「柿崎に復讐するつもりだ、この春さきだったか、石川は向島でみやどのを誘拐しようとしたことがある、宮本新八がそう話していたではないか」
「そうだ、石川は復讐するつもりなんだ」と尾田内記が云った、「そして、おれは石川のくふうを見た、勝負のことはわからないが、彼の隻手の術はすさまじい、瓦十枚を手刀で破るし、二本の指で四分板五枚を突きやぶる、それから、五寸釘を拳で板へ打ちこんでみせた」
「力ではないな」
「力ではない術だ、そのうえやわらは躰さばきが敏捷で、刀法とはまったく進退動作が違う、確言はできないが、おれの眼で見たとこだと、彼はたぶん柿崎に勝つだろう、十中八九まで勝つだろうと思う」
野中又五郎が初めて、話しというのはそのことか、と訊いた。
「いや、これからだ」と内記は野中を見た。
藤沢と石川が、そこもとたちも柿崎道場を出て、こっちへいっしょにならないかとすすめた。かれらの道場はやわらが好評で、門人も殖えるばかりだし、将来のみとおしも確実である。みんなが来てくれれば、丸屋伝右衛門から資金を出させて、新らしく道場を建てるつもりだ、と云ったそうで、いま藤沢と石川が表てまで来ている、と内記は囁いた。