Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

Read 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 148,519 characters · 296 screens

Aozora Bunko

あやめもわかず

「灯を入れる頃に起きる」と甲斐はおくみに云った、「雁屋と、いつもの芸人たちをよんでおいてくれ」

「お話しがあります」とおくみは云った。

甲斐は「あとだ」と云って眼をつむった。おくみは枕もとに坐り、低い声で囁いた。

「御老中の酒井さまがいらっしゃいました」

甲斐は眼をあいた、「――酒井さまが来たって、ここへか」

おくみは頷いた。いつだ、と甲斐が訊いた。昨日です、とおくみが云った。甲斐は眼をつむった。

「話してくれ」

「家の前でお駕籠を停め、気分が悪くなったから休ませてもらいたい、と仰しゃいました」

「酒井侯となのってか」

「あとでお供の方が、内密だが、といって知らせて下さいました」

「座敷へあげたのか」

おくみは「はい」と答えた。

甲斐の眉間に皺がよった。彼は掛けた夜具を、胸から下のほうへと、静かにずらし、それからまた「話してくれ」と云った。

おくみは話した。雅楽頭は五人の供をつれていた。寛永寺へ参詣の戻りだそうで、座敷へとおると白湯を求め、懐中薬をのんだ。気分が悪いというふうにはみえなかったし、しばらくすると酒が欲しいと云いだした。

おくみはむっとした。――無礼なことを云う人だ、いかにも身分の高い人らしいが、そんなことを云うのは、こちらを町家の人間とみくびったのであろう。