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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
Read 江戸三国志 (えどさんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 577,271 characters · 1141 screens
そして、両手を顔に当てたかと思うと、美しい眉目は忽然と口の引っ裂けた形相に変っている。
次郎の寝顔から剥取って来た出目洞白の般若の神作。
――やがてその怪奇な、そして美しい人影は、草と水と水蒸気とにぼかされた女影の里の迷路を、何処ともなくさまよい出でました。
女は何処へさして行く気でしょう。
右を見ても左をながめても、渺として同じような草の波がうねるばかりな女影の迷路を、果てなく、現なく、さまよって行く様子では、何処へという、心の目当てもありそうもありません。
――だのに。
この深夜、野鍛冶の家を出て来たのは、片目の半五郎のおそろしいささやきを聞き、親切ごかしのたくらみに気がついたものから、にわかに、虎口をのがれる気で、抜け出したものにちがいありますまい。
そして。
次郎の被っていた洞白の鬼女仮面を取って自分の顔につけ、夜干しの小袖を頭からスッポリと被衣にしているのは、この真夜中に女の一人歩き、野獣や野盗に対する魔除けかと思われます。
いかにも、その化装の女に正面から行き逢ったら、野づち、狐などの野獣も寄りつくことができないでしょう。
また、命知らずな野伏せりも魔魅も道を避けるにちがいない。