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はなかみろうにん
濞かみ浪人
吉川 英治
Read 濞かみ浪人 (はなかみろうにん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,425 characters · 39 screens
浪人ぼね
『誰だ、あれは』
兎角、誰にも気になるとみえて、まだ彼を知らない奥向の老臣などでも、よく彼の同僚は訊ねられた。
『は、あれは先頃、お国表の方から江戸詰に転役して参った――不破数右衛門でございます』
そう同僚が答えると、次にはきっと、誰でも同じように頷いて呟いた。
『――道理で、何処となく、浪人くさい男じゃと思ったら、あれが岡野治太夫のせがれか。それでまだ、親の垢が抜けておらぬのじゃな』
浪人ぼね
さむらいの中には、浪人骨という言葉がある。元和慶長頃の粗野な血をそのまま持っていて、元禄という文化時代へ来ても、どうしてもそれが洗練されない――そして平和な社交で奉公人の型に篏らない人間――それを、
(浪人骨のぶとい奴)
と、よく云うのである。
数右衛門がそれだし、彼の親の岡野治太夫が又それだった。豪放不覊な質だったのであろう、もう十数年前に、浅野家を浪人して、頑として、陋巷に貧乏を通して死んだ。
べつに、罪科があっての浪人ではないから、その子の数右衛門は又、元の浅野藩の家へ養子に貰われて来た。しかし、親ほど浪人骨がぶといとは、養家でも思わなかったに違いない。
ところが、数右衛門の浪人骨は、親の治太夫以上にぶといものだった。