Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

はなかみろうにん

濞かみ浪人

吉川 英治

Read 濞かみ浪人 (はなかみろうにん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,425 characters · 39 screens

Aozora Bunko

それだけに又、彼のみの心理としては、前より強く、胸の中で独り楽しみを暖めている傾きもある。

『なぜか、此頃あまり、あれを云わなくなったぞ』

わざと、話しかける同僚もある。でも数右衛門は、お千賀のことは避ける。そして唯、へらへらと笑う。

『おめでたいというのは、数右衛門のような人物のことだろうな』

陰のうわさは、少しも彼に反映しない。眼で見ても、物事を疑うとか、疑ってみようとかしない彼であった。

隅田川の災難も、過失だと思っているのだ。むしろ自分の不覚――恥とさえ思って慚愧しているくらいで、あの折の屋形船の中に、庄左衛門や雄之助が、自分の苦しみをながめて、酒の肴にしていたなどとは、彼の性格では、そう人が教えてやっても、嘘だというに違いない。

けれど真実は結局、誰か真実を見ている。至って、友達のなかった彼にも、

『いや、あれには、いい所がある』

と、次第に親しみを加える者が、いつとはなく藩邸の中にも幾人かは出来てきた。

押しつまって、御用仕舞の年暮の廿五日。

藩邸の御長屋で、数右衛門並みの同僚ばかりで十四、五名で、持ち寄りで一酌やった。

その時一人が、数右衛門をつかまえて、おれは貴様の友達だからこそ云うのだぞと、酒の上のみではない熱意をもって聞かせた。