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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

Read 猫の蚤とり武士 (ねこののみとりぶし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,496 characters · 368 screens

Aozora Bunko

(これは駄目だ、追うのはやめよう)

こう思った時一頭の馬が、戦場から逸して走って来た。

「しめた」

というと、その馬を抑え、素早く三十郎は飛び乗った。

そうして菊女の後を追った。

距離がだんだん近くなった。

(はてな?)

と菊女は背後の方から、あたかも自分を追うかのような、馬の蹄の音がするので、不安を感じて振り返って見た。

と、一人の浪人らしい武士が、すぐの間近に迫って来ていた。

(敵か味方か?)

と見きわめようとした時、

「菊女殿!」

とその男が云った。

「どなたでございます?」

と菊女は訊いた。

「拙者は刃三十郎!」

「刃三十郎? 刃三十郎!」

菊女は何がなしにゾッとした。

三十郎といえば自分達の同志の、松浦民弥の親の敵であり、いつぞや自分と鵜の丸兵庫とが、かくれ住んでいる家へ忍び込み、自分たちの秘密をうかがったところから、自分たちが討って取ろうとしたのを、詭計をもって逃げた男で、自分たちにとっても敵である筈だ。

(が、どうしてその男が、こんな場合にこんな所に?)

菊女は瞬間行動に迷った。

と、三十郎が嘲笑うように云った。

「いつぞやは馳走にあずかりましたな、剣のご馳走というやつに! ……江戸は本所のそなたたちの住居で! ……今日こそご馳走のお返しじゃ! ……拙者に従いておいでなされ!」