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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
Read 猫の蚤とり武士 (ねこののみとりぶし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,496 characters · 368 screens
「錨を持って行かれたとあっては、船をとどめて置くことも出来ぬの。このような時には岸へなど寄せずに、沖の方へ止めて置くべきだが」
老貴公子はそう云いながら、ここまで聞こえて来る暴風雨や、波濤の音に耳を澄ました。
と、人々の叫ぶ声が聞こえた。
「変な小船が寄せて来たぞ!」
「海賊ではないか! 用心しろ!」
「それ右舷の方へ廻ったぞ!」
「左舷の方へもあらわれた」
「ヤア何か叫んでいる」
「松明をふりまわして合図をしている」
老貴公子はそれを聞くと、
「天災に加えて人の災が来たか。……それも仕方あるまいよ……海賊? なるほどそうかもしれぬ。純友以来瀬戸内海は、海賊どもの巣窟だからの」
と、依然として悠々寛々として云った。
しかし人々の叫ぶ声が、あまりに烈しくきこえて来たので、老貴公子は立ち上がった。
「どれ甲板へ出てみよう」
家来たちは口々に止めた。
「おあぶのうござります、お止まりくだされ」
「それに雨風も烈しゅうござりますれば」
しかし老貴公子は意にもかけないで、甲板の方へ上がって行った。
で、家来たちも止むを得ず、それにつづいて甲板に上がった。
いかさま凄まじい光景であった。