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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
Read 猫の蚤とり武士 (ねこののみとりぶし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,496 characters · 368 screens
そうして恋人の鵜の丸兵庫とは、長い間わかれわかれに、生死にかかわる苦労をし、ようやく逢って一つ旅籠にはいるが、毎日忙しそうに動き廻ってばかりいて、おちおち話すことさえ出来ない。それに事件がこじれると、紀州公を向こうへ廻し、また生死にかかわるような騒動に、遭遇しなければならないかもしれない。
菊女には寂しいことばかりなのであった。
恋人兵庫がやがて去り、松浦民弥が夜に入ってから、これも旅籠を出て行ってからは、菊女はほんとに一人ぼっちとなってしまった。
この吉野屋のすぐ前に、宝屋という酒屋があり、お神さんが美しいので、いつも店は繁昌していた。
この日もずいぶんたてこんでいて、話す者、歌う者、罵る者、笑う者で、陽気の風景を呈していたが、夜になるといよいよたてこみ、客の出入りなど烈しくなった。
その頃一人の浪人者が、顔を深く頭巾でかくし、人目立たないようにはいって来たが、それは刃三十郎であり、三十郎は鋭い眼で、ジロジロ店の様子を眺めた後、店の片隅へ寄って行った。
と、そこにはずっと昼間から、三人ほどの破落戸らしい、風の悪い男が三人いて、街道ごしの吉野屋の門口へ、絶えず視線を送っていたが、三十郎の姿を見ると、一斉にヒョコリと辞儀をした。