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しゅくず
現代日本文学館8 徳田秋声
徳田 秋声
Read 現代日本文学館8 徳田秋声 (しゅくず) by 徳田 秋声 (とくだしゅうせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 327,364 characters · 638 screens
間もなく葉子が帰って来た。
「綺麗な男じゃないか。」
「そう思う?」
葉子は微笑した。
その時分彼女はまだすっかり宿を引き払っていなかったので、秋本に逢ったのは、今日が初めかどうかは解らなかったし、玄関口で二人で何か話していたことも知っていたが、晴々しい顔をして傍へ返って来た葉子を見ると、多少の陰影があるにしても、それは単に歌のことで指導を受けている間柄のようにしか見えなかった。
その時分庸三の周囲が少しざわついていた。新聞にも二人の噂が出ていて、時とすると匿名の葉書が飛びこんだり、署名して抗議を申しこんで来たものもあって、そのたびに庸三は気持を暗くしたり、神経質になったりするのだが、葉子はそろそろ耳や目に入って来るそれらの非難を遮ぎるように、いつも彼を宥め宥めした。家庭の雰囲気が嶮しくなって来ると、すごすご宿へ引き揚げて行くこともあったし、彼女自身が嶮悪になって、ふいと飛び出して行くこともあった。庸三は何かはらはらするような気持になることもあったが、葉子はその後で手紙を少女にもたせて、彼を宿に呼び寄せたり、興味的に追いかけて行く子供と一緒に、夜更けの町をいつまでも歩いていることもあった。