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しゅくず
現代日本文学館8 徳田秋声
徳田 秋声
Read 現代日本文学館8 徳田秋声 (しゅくず) by 徳田 秋声 (とくだしゅうせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 327,364 characters · 638 screens
「ハインツェルマンのお玉さんのところへ、ちょっと寄ってみません?」
通りへ出てから、小夜子が言った。
「ハインツェルマンって……。」
「先生はまだ御存じなかったんでしたっけ。ハインツェルマンという独逸人と同棲している尼さんよ。」
「その独逸人は?」
「若い技師よ。」
小夜子が七年間同棲していた独逸のフォン・クルベーとの関係から、小夜子はいろいろな独逸人を知っているものとみえ、いつかも銀座を歩いていると、尾張町の角のところで、五十年輩の、あまり上品でない独逸人に出逢って、小夜子がはずそうとするのを、何かと揶揄い面でどこまでも附いて来たこともあった。
「あれは何さ。」
と聞いても、小夜子は「ううんいやな奴よ」と笑っているきりだった。
ハインツェルマンは、ちょっとした門構えの家に住んでいた。小綺麗にしている、丸髷の母親が玄関にすわってお辞儀したが、お玉さんも小夜子の声を聞きつけて奥から出て来た。彼女は質素な洋服を着ていたが、まん丸な色沢のあまりよくない顔が、寂しいなりににこにこしていた。髪は無論ボッブされていた。そしてどの部屋も、翻訳劇の舞台装置のようなものだったが、二階の八畳敷には、安ものの青い絨毯が敷かれて、簡素な卓子と椅子が並んでおり、がっちりした大きな化粧台の上に、幾つかの洋酒の壜も並んでいた。