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ひゃくしんのふ
百唇の譜
野村 胡堂
Read 百唇の譜 (ひゃくしんのふ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,209 characters · 25 screens
真弓の心・良平の心
横着で、無恥で、薄情で、少し気違い染みてさえ居る千代之助は、ドンファンや、世之助のような、色魔に共通の、不思議に眼先の利く才能まで用意して居るのでした。
最後に千代之助は芝居者の群に身を落してしまいました。門閥のやかましい社会へ、そう容易く潜り込めるわけは、無かったのですが、勘当されて居るにしても、実家の家柄が光ってくれて、思いの外易々と猿若町の住人になりすましたばかりでなく、何年目かには、名題下の若手で、有望と言われる地位にまで経登って居りました。
この仕事、――白粉を塗って、青い赤い衣装をつけて、毎日舞台の上で恋をしたり、観客の美しいのを、それとなしに漁ったりする仕事は、千代之助には一番打って付けたものだったのでしょう。飽きっぽい日頃にも似ず、こればかりはすっかり腰を据えて、芸名をそのまま、沢村千代之助と名乗って売り出しました。
その間にも女稼ぎは休んだわけではありません。あらゆる階級の、あらゆる年頃の、あらゆる女を、次から次へと漁って五年七年の後には、真弓も良平も何も彼も前生涯を忘れてしまって居りました。
真弓の心・良平の心
小田切三也は二年目に急病で亡せ、小田切家の家督は名実ともに良平が譲り受けました。