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ひゃくあしちがい
百足ちがい
山本 周五郎
Read 百足ちがい (ひゃくあしちがい) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 28,491 characters · 56 screens
七
――この庭でか、よし。
又四郎は刀を持って廊下へ出た。ところが唐川運蔵は庭へ土下座をしていた。両手を地面の上へつき、その白い額を地面にすりつけ、敏速におじぎをしながら、哀訴するような声でべらべら詫びを云うのである。
「このとおりだ、赦して呉れ、おれには妻がある、妻はおれを愛している、おれは死にたくない、悪かったらこの頭を踏んでくれ、蹴とばして呉れ、睡をひっかけて呉れ、おれは三文の値打もないやつだ、妻を可哀そうだと思って呉れ、金ならある、いくらでも出す、赦して呉れ、どうか勘弁して、おれの一生の恩人になって呉れ、どうか、どうか、……」
七
それから中一日おいた早朝の五時。淀井川の河原で又四郎は苅賀を待っていた。
すでに四月で、季節は晩春。河原はいちめんに草が萠え、葦の芽がつんつんと伸びている。俗にそこは「水車場」といわれるが、水車はない、あったとすればずいぶん昔のことだろう。城下町からは小一里も離れているし、淀井川の対岸はもう隣藩領であった。
「――あいつ相当なものかもしれない」又四郎は川波を眺めながら呟いた、「――自信がなければ、あれほどは云えないものだ、……たぶん決闘などの経験もあるんだろう、ことによると、……しかしおれだってそう脆くは、これで、負けやしないさ」