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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Read 私本太平記 (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 126,598 characters · 254 screens
「……何かこれには深いわけが?」と、なかなかこのきは消えなかった。
だが真相は、彼らにわかろうはずもない。白昼、市井の雑閙で行われた兇行の根元は、宮中にあったのだ。知る者は、やんごとなきお人と、三、四の公卿と、犯人しかなかったのである。いやもう一人、治郎左衛門元成という者と。
その元成は、
「次の横死は、わが身の番か」
と、冬日の下にも身をおく尺地すらないような恐怖に、日々追いつめられていた。
また、世間の声を聞いては、
「もし、大判事殺しを、あの時あのまま自分が刺客となって、自分の刃でしていたら」
とも考えた。
その方が、むしろ彼には、おそろしい回顧だった。――たとえ結果では、こんな境遇や恐怖を求めたにせよ、まだこの途を選んだことの方がよかったのだと、思われもする。
生きようとすれば、あがきの爪が、何かはつかむ。
生きる途を、夫婦はついに見つけた。
京も端れの蹴上の下、今熊野の裏に、ちょっと得態のしれない都の中の村がある。
いつも、がちゃがちゃ賑やかな生活の物音の中で、よく働き、よく唄い、また或る晩には、村全体で、老いも若きも子供も、鉦叩き念仏を唱和して、念仏踊りを仲よく踊りぬいている奇妙な仲間なのだった。