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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

Read 私本太平記(五) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 252,330 characters · 505 screens

Aozora Bunko

おまえたちまでがわしを変だと思うのか」

「め、めっそうもない。ただおからだをお案じ申しあげるばかりに」

「おや。泣いているな。……どうした。いま泣き腫らした顔でもないが。……みんな揃いも揃って、何を泣いていたのだ」

「おゆるしくださいませ」

「もどかしい。ほんとのことをいえ! ほんとのことを」

「うえ様……」と、常葉の局が、むせびあげて。「ほんとは、たったいま、六波羅の御合戦から近江番場のくわしいことが、さる御僧の文知らせで、わかって来たのでございまする」

「そして」

「むつらの御方の愛し子やら、お妻の局の父御、百合の小女房の良人、またわたくしのただ一人の身寄りも」

「死んだのか」

「討死したり自害したり、有縁の者、ひとりも生きたという名は見えませぬ」

「しかたがあるまい。人間がみんなどうかしてしまったのだ。冬の梢のように、一ト葉も残らず、枯れつくし、死に尽くさねば、この業は熄まないかもしれないのだ。おそろしいことになった。ああ、苦い。口が苦い。酒をもってこい」

「ご酒を」

「くすりとは、それのことだ。わしは負けたくない。こんな世に負けたくない。一日でも愉しまなくて何の生きてきた効いがあろうや。