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きどうむかしがたり
綺堂むかし語り
岡本 綺堂
Read 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 183,656 characters · 363 screens
湯屋
時どきに流れだまが飛んで来るから戸を閉めて置け。」と云う。わたしは衾をかぶって蚊帳の中に小さくなっていると、暫くしてパチパチの音も止んだ。これは近衛兵の一部が西南役の論功行賞に不平を懐いて、突然暴挙を企てたものと後に判った。
やはり其の年の秋と記憶している。毎夜東の空に当って箒星が見えた。誰が云い出したか知らないが、これを西郷星と呼んで、さき頃のハレー彗星のような騒ぎであった。しまいには錦絵まで出来て、西郷桐野篠原らが雲の中に現われている図などが多かった。
また、その頃に西郷鍋というものを売る商人が来た。怪しげな洋服に金紙を着けて金モールと見せ、附け髭をして西郷の如く拵え、竹の皮で作った船のような形の鍋を売る、一個一銭。勿論、一種の玩具に過ぎないのであるが、なにしろ西郷というのが呼び物で、大繁昌であった。私などは母にせがんで幾度も買った。
そのほかにも西郷糖という菓子を売りに来たが、「あんな物を食っては毒だ。」と叱られたので、買わずにしまった。
湯屋
湯屋の二階というものは、明治十八、九年の頃まで残っていたと思う。わたしが毎日入浴する麹町四丁目の湯屋にも二階があって、若い小綺麗な姐さんが二、三人居た。