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こどうひゃくわ
胡堂百話
野村 胡堂
Read 胡堂百話 (こどうひゃくわ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 124,386 characters · 248 screens
作家に対する世間の関心が、今とは、よほど違っていたのだ。
「あぐらにしましょう。あなたもどうぞ」
着物の裾をぐいと引いて、たくましい足をかかえこむ。そうして、得意のイギリス文学罵倒がはじまる。
「ショウは、皮肉すぎますよ。オスカー・ワイルドも評判ほどでない。イプセンは、テーマに振り回されて冷たすぎる。大体、西洋には、大したやつはいませんが、中でも、イギリスは気に食わないですよ」
これは、花袋氏の自信力の現われでもあるが、一つには、自然主義を契機とする日本文学の勃興期で、すべての作家の胸の中に、欧米文学なにするものぞの覇気がみなぎっていたのであろう。
「我国の文学界が行きつまったというけれど、そんなことがあるものですか。これから若い人がうんと出て、盛んに競争して行けば、ドイツも、フランスもあんなものはあなた……」
言ってることは勇ましいが、口調はすこぶる愛嬌があって赤ン坊のように、たどたどしい。前歯が欠けてるせいであろう。
そうして、言葉の一区切りごとに、足首をぐいと、かかえこんであぐらを組み直す。肥りすぎているせいかと思ったが、あとで聞くと、当時の花袋氏は、長いこと、脚気に苦しんでいたのだった。