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きく
親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選
山川 方夫
Read 親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選 (きく) by 山川 方夫 (やまかわまさお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 67,486 characters · 144 screens
菊
昔、一人の女がいた。
女は御所につとめ、幼いころからその御所の奥ふかくに住み、中宮の御身のまわりのこまごまとした雑用をはたすのが役目だった。
中宮と主上との御仲はたいへん円満で、毎日は時の刻みのように着実に、平和に過ぎ、そのあいだ女もまた中宮に表裏なくまめまめしく仕えたので、中宮は女に一部屋を下さるまでになった。いつのまにか、女の年齢は二十を大幅に越えてしまっていた。
ある春の一日、御所で花見の宴が催された。女は、禁裏に招かれた大臣たちの警護の武士の一団に、酒肴をすすめていた。若い武士たちは烏帽子に狩衣をつけ、毛抜形のそりをうった太刀を傍に置いて、おそらくはじめて見るのだろう禁裏の、それも裏庭からの眺めに、ものめずらしげな目を散らしていた。革くさい武具の匂いのする若者たちであった。
みやびな公卿たちに慣れた宮中の女どもには、かれらは眉をひそめさせるようなあらあらしい粗野な男たちに思えた。年若い女どもは、近づくのさえこわがっているのがありありと見てとれたが、その中で女は、さきに立って酌をしてまわっていた。女の物ごしの落着きに気をくじかれてか、男たちは彼女にだけは卑猥な冗談を投げかけることもせず、女もまた、毎年のそのようなかれらからの反応――あるいは反応のなさには、すっかり慣れてしまっていた。