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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
Read 赤ひげ診療譚 (あかひげしんりょうたん) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 26,416 characters · 53 screens
「養生所へおいでなさい」と彼は女に云った、「私も危篤の病人があっていく途中だから、養生所へいって頼むがいいでしょう、もうひと走りですよ」
女は礼を述べて、小走りに坂を登っていった。
佐八の家には治兵衛と、相長屋の者だろう、女が二人いて病人の世話をしていた。若い女房のほうが火鉢で湯を沸かし、老婆はしきりに古畳を拭いていた。明け方に少し吐血し、いましがたまた多量に血を吐いたのだという。金盥がまにあわなくて、半分は畳へ吐いたそうで、老婆は湯で雑巾をしぼっては、丹念に畳の目を拭いていた。
「ゆうべ重湯を少しと、卵の黄身を半分ばかりたべたそうです」と治兵衛は呟いた、「ばあさんは泊るつもりで、蒲団まで持って来たんだが、どうしても病人が承知しないそうでして、今朝はまだ暗いうちに来てみたら、よごした物を自分で片づけていたそうです」
登は佐八の枕許へすり寄った。
佐八は眠っているらしかったが、眼も薄くあいているし、口は下顎が外れでもしたように、力なくがくりとあいていた。顔色はどす黒く、まったく生気を失い、頬肉はそぎ取ったようにこけて、皮膚が顎のほうへ皺をなしてたるんでいた。