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じじょにかえて
近代浪漫派文庫 29 大木惇夫 蔵原伸二郎
蔵原 伸二郎
Read 近代浪漫派文庫 29 大木惇夫 蔵原伸二郎 (じじょにかえて) by 蔵原 伸二郎 (くらはらしんじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 6,296 characters · 17 screens
系図
二つの腕の間を風ばかりが吹き過ぎてゆく
万里子よ
お前は風の中ですやすやと眠つている
お前の頬には
樹蔭のみどりと薔薇色がゆれている
千の光がお前のあどけない唇で唄つている
乳の匂いのするお前のやわらかい肢体は
虚無に浮いている地球と同じ重さだ
かずかぎりもないおじいさんたちが
しわがれ声で唄つて消え去つたように
このあやめの花咲くしずかな校庭で
おれもしわがれた声で唄うよ 万里子
ねんねんよ
ねんねんよ
お前のおじいちやんには
もう何の夢もない
もう何の願いもない
すべてが失敗と悔恨の歴史だ
かわいい 万里子ちやんよ
ほらね いま永遠がとおりすぎるよ
どこかで かすかな水の音がきこえる
どこか遠いところで牛が鳴いている
系図
入間郡は田辺の里。
その村の丘にかや葺の大きな家がある。
丹治比古王の子孫の家だという。
冬日の光る苺畑を横ぎり、
鶏小屋の前を通つて案内を乞うた。
「どうれ」というしわがれ声が
ひつそり閑とした暗い奥からきこえた。
出てきたのは七十歳ぐらいの老人、むつとした顔で私をにらんだ。
「お宅の系図を拝見したいのであります」と、いうと
老人は意外にも「うん」といつて系図を出してきて縁側においた。