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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 157,440 characters · 313 screens
「千両はたいしたことだな。ところで、くどいようだが、半兵衛の生国や旧主を何にかの話の序に漏したことはないのか」
「そればかりは申しませんでした。何んでも中国筋のことをよく知っておりましたし、上方なまりのあったところから見ると、上方から中国へかけての、小大名の家中かと思いますが――」
お栄の聡明さも、ここまでは探索が届かなかった様子です。
「もう一つお前がもと居たという見世物は何んという一座だ。親方の名は?」
「明石一座と言いました。親方は明石五郎八、旅まわりの田舎芸人で、江戸などで小屋を掛ける人じゃございません」
「よしよし、今度その見世物小屋にめぐり逢ったら、お前のことを話して見るよ」
平次はそんな愛嬌を言うほど心に余裕が出来た様子です。
「親分」
飛び込んで来たのはガラッ八でした。相変らず疲れを知らぬ男です。
「何んだ――もう遅いぜ。宜い加減にして引揚げようと思って居るところだ」
「それどころじゃありませんよ、井戸端で血を洗った奴がありますよ。まぐろを料った板みたいについて居ますぜ」
「そうか」
平次は外へ出ました。下っ引二、三人、提灯を振りかざして騒いで居るのを見ると、なるほど井戸端の流しは斑々たる血の痕で、ここで汚れを始末しましたと言わぬばかりです。