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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(九) 全十冊

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(九) 全十冊 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 41,029 characters · 82 screens

Aozora Bunko

「それっきりか」

「それっきりには違いありませんが、両国の水茶屋で、弁天屋のお伝お半と並べて謳われた一枚絵の主が、死んだ若旦那の色文を四十八本も温めて、青坊主にはならないまでも、美しい髪の毛を切り下げにして、念仏三昧に日を暮らすのは少し変じゃありませんか。ね、親分」

八五郎に言わせると、水商売の女が四十八本の色文を使い紙にもせず紙衣も貼らず、足を洗って行い済ましているのが、まことに不思議でたまらなかったのです。

「弁天屋のお伝とお半というのは噂に聴いた女だが、吉田屋に乗込んだのはどっちだ」

「お半の方ですよ。お伝はおとなしい娘でしたが、三月前に死んで、少し鉄火で綺麗なお半の方が紅白粉を洗い落して、吉田屋へ乗込んで来たんです」

「世の中は様々だ。水商売の女だから浮気と限ったものじゃあるめえ」

そう言う平次の女房のお静も、もとは水茶屋の茶くみ女だったことに思い当ったのでしょう。

「でもね、親分。あの仇っぽいお半坊が、被布の上へ輪袈裟かなんか掛けて、阿牟伽やる図なんてものは、ウフ」

「馬鹿野郎ッ」

平次はこの至極封建的な一喝を浴せました。しかしこの事件自体は、八五郎が面白がるほど変ったことではないにしても、この後につづいた事件の真相に至っては、銭形平次の長い十手生活中にも、全く比類のない変ったものだったのです。