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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(九) 全十冊
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(九) 全十冊 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 41,029 characters · 82 screens
「実はお向いの朝倉屋の倅が亡くなったことについて、少しばかりお訊ね申したいので」
注を入れました。
「何? 御用聞? 銭形平次とかいうのはお前か――なんであろうと、朝倉屋は朝倉屋、拙者立花久三郎は立花久三郎だ。なんの拘わりも因縁も付き合いもない。娘に逢おうなどとは以てのほかだ。帰れ帰れ」
まことに剣もほろろの挨拶です。
が、この父親の、世間体を兼ねた強気一点張りの応答も、そっと袖を引く手にたじろぎました。
紫陽花のような感じのする娘お妙が、不自由な足を引摺ってお勝手へ出て来ると、父親の袂を引いて、その我武者羅な強気を牽制しながら、
「あの、竜吉さんは、本当に人手にかかって亡くなったのでしょうか」
涙を含んだ大きい眼が、平次を見上げて、父親の蔭からまたたくのです。
「お妙、引っ込んでいるがよい。お前の出る幕ではない」
父親は袂を払って激しい言葉で叱りつけますが、そのあらぬ方を見た眼もまた、妙にうるんでおりました。
「でも、それだけは聞かして下さい。竜吉さんは、本当に人に殺されたのでしょうか」
処女の頬はもう濡れて、グミの唇が、激しい悲しみに、捻れたように歪むのです。